ウイルスでもビロイドでもない「第3の勢力」

2024年、スタンフォード大学の研究チームが発表した「オベリスク(Obelisk)」の発見は、私がこれまで信じていた生物学の境界線を根底から揺るがすものだった。
これはウイルスよりもはるかに小さく、わずか1,000塩基程度の環状RNAに過ぎない。
しかし、植物に感染する単純な「ビロイド」とは決定的に異なり、彼らは「オブリン」と命名された未知のタンパク質を自ら作り出す能力を持っているのだ。

このサイズでありながら、独自の構造とタンパク質コードを持つという中間的な複雑さは、まさに生命と無生物の間に位置する「第3の勢力」と呼ぶにふさわしい。
古代エジプトの記念碑のような細長い棒状の構造を持つ彼らが、私たちの口内や腸内の細菌の中に静かに潜んでいた事実は、ミクロの宇宙の深淵を感じさせずにはいられない。

読めるが意味が分からない「未知の言語」

驚くべきことに、最新のメタゲノム解析によって、世界中の人々のサンプルから約3万種類ものオベリスクが見つかっている。
しかし、これほど大量に存在しながら、彼らが何をしているのかは「全くの謎」なのだ。
オベリスクが持つタンパク質の設計図は、既存のどの生物のデータベースとも似ていないのである。

本に例えるなら、文字(RNA配列)は読めるが、単語(タンパク質)の意味が辞書を引いても載っていない、未知の言語で書かれた古文書のような状態だ。
自分たちの体の一部だと思っていた場所が、実は解析不能なブラックボックスだった。
科学者たちがこの「居候」の飼育を試み、その正体を暴こうとしている現在、私たちは生命の定義を更新すべき瞬間に立ち会っているのかもしれない。

ささやかれる「バックドア」と「静かなる進化」

現時点では無害、あるいは太古からの共生者である可能性が高いとされているが、その「未知の性質」ゆえの怖い仮説も無視できない。
例えば、オベリスクが体内の常在菌を支配下に置き、外部からの刺激で毒素を作らせる「バックドア」として機能するシナリオだ。
知らないうちに、体内の同居人たちが一斉に反旗を翻すスイッチを握られているとしたら、これほどゾッとする話はない。

さらに、ウイルスよりも検出が困難なこの存在が、抗生物質の効かない「耐性遺伝子」を高速でばらまく「運び屋」として機能している可能性も懸念されている。
情報そのものがヒトの代謝システムに紛れ込み、私たちのエネルギーをこっそり「上納」させているのではないかという説すらある。
私たちは自分の中に、隠れるのが極めて上手い「未知の寄生者」を飼っているのかもしれないのだ。

この記事をシェアする

#生物学#オベリスク#科学ニュース

新着記事

メニュー

リンク