外務省の「開口」と軍部の「銃口」――二重構造の深化

2026年4月、イランのアラグチ外相はレバノン停戦に合わせ、ホルムズ海峡の完全開放を世界に向けて宣言した。
しかし、この言葉を額面通りに受け取った者は、現場の実情にあまりに疎いと言わざるを得ない。
現実には、宣言の数時間後には革命防衛隊(IRGC)やガリバフ議長が事実上の封鎖継続を示唆し、現場の支配権が中央政府のコントロールを離れていることを露呈させた。

IRGCは独自の「新規則」と称し、Larak島周辺などの指定航路を通る船舶に対して多額の「通行料」を要求し始めている。
これは事実上の護衛費用の強制であり、応じない船舶には拿捕や機雷のリスクがつきまとう。
ハメネイ師死亡後の混乱による権力空白が、軍部の暴走を加速させている側面は否定できない。
私は、この「政府の言葉と軍の行動の乖離」こそが、現在の地政学リスクにおける最大の不透明要因だと確信している。

原油価格「9%急落」からのリバウンドが物語る市場の不信感

市場の反応は残酷なまでに正直であった。
4月17日のニューヨーク市場では、開放宣言を受けてWTI原油先物が一時9%超も急落したが、その後、下げ幅の半分以上を埋める猛烈なリバウンドを見せた。
なぜ市場は「朗報」を信じきれなかったのか。
それは、マースクなどの大手海運会社が「機雷の安全が確認されない限り航行を再開しない」と冷ややかな反応を示したからだ。

さらにトランプ大統領の「取引が100%完了するまでイラン封鎖は解かない」という宣言が、リバウンドに決定打を与えた。
海峡の入り口をIRGCが抑え、出口を米海軍が睨みつけている以上、物理的な物流の回復は望むべくもない。
結局、一時的な急落は「行き過ぎた期待」によるものであり、投資家は即座に「供給不安は解消されていない」という厳しい現実に引き戻されたのである。

エネルギー不安が招く「実物資産シフト」の加速

この不安定なエネルギー情勢は、意外な方向へ資金を流し込んでいる。
原油価格が乱高下する一方で、金や銀といったセーフヘイブン資産への信頼が強まっているのだ。
特に銀は需給の逼迫も相まって1ヶ月ぶりの高値を更新しており、形のない「外交宣言」よりも、形のある「実物資産」を保有する動きが顕著だ。

こうした地政学の駆け引きは、私たちの生活、例えば農作業の機械燃料や輸送コストにも確実に重くのしかかってくる。
外交官の「言葉」に一喜一憂するフェーズは終わった。
現場で一発の威嚇射撃があれば、原油価格は再び100ドルの大台を伺う展開になるだろう。
私は、今後も「現場の銃口」と「タンカーの滞留数」を指標として、事態を冷静に監視し続けるつもりだ。

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#イラン情勢#原油価格#ホルムズ海峡#地政学リスク

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